Yuichibow’s diary

リージョナルジェット機の操縦席から外を眺めるお仕事をする人の日記

裕坊、休日(12月5日)

アメリカの地域航空会社で、小型旅客機に乗っている、裕坊といいます。こんにちは。

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明日日曜日まで4日間の連休をいただいて、月曜日が出勤日。

 

コロナウィルスの感染再拡大が広がっているアメリカ……裕坊が勤めるエンデバー航空社員といえども例外ではなく、全社所属のパイロット1,927名に対して、これまでで123名が陽性の診断。そのうち68名は、ここ5週間の間の新規陽性となりました。

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先週は病欠を申し出た者も多かったのでしょう。欠員が多く出て、病欠の穴埋め役をやっているスタンバイシフトの『リザーブ』と呼ばれる乗務員の数が枯渇……

 

人員がギリギリになる中で、どんなやり繰りをするのか興味を持って見守っていたのですが、結果的に欠航便を1便たりとも出すことなく、全便運航に漕ぎ着けたのは、
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まさに乗務員管理部のお手柄でした。現場は大変だったでしょうが……

ただ親会社であるデルタ航空では、感染再拡大に対する危機感をかなり高めています。
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感染拡大初期には、1日あたりの赤字額が60万ドル(日本円でおよそ6,300万円)だったデルタ航空。11月期までには1日あたり10万ドル(1,050万円)まで改善していたのですが、12月期以降は赤字額が12万ドルから14万ドルに再拡大するものと予想。

 

異例の時期の、赤字試算額の発表となりました。

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乗客の推移を見ながら、早いところでは一部に既に欠航便も出始めています。エンデバー航空が担当する便では、アトランタ空港コード:ATL)からペンシルベニア州のアランタウン(コード:ABE)を結ぶ路線が、1日2便から1便に、アトランタからヒューストンのダウンタウンに近いホビー空港(コード:HOU)を結ぶ路線も、週日1日5往復だったところを4便へと減便…

 

乗客の減少に代わる収益源として、各旅客航空会社が当て込んでいるのが、ワクチン輸送。

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最近メディアでもよく取り上げられるようになったファイザー製薬のワクチンを例に挙げると、クリスマス前の接種開始を目指して、5000万回接種分の製造を見込んでいるそうですが、ここで障壁になるのが輸送と保存。ファイザー製薬のワクチンだと、必要になるのがマイナス80度という超冷凍保存が必要になります。ちなみにモデルナ社製だと、必要になるのはマイナス20度。

 

そこで使用が見込まれているのが、ドライアイス

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0度付近までしか冷却能力を持たない氷と違って、ドライアイスはマイナス80度の冷却能力を持ちます。ドライアイスとは、そもそもは二酸化炭素。圧縮冷却して液化し、さらに冷却して固化されたものを冷却用として利用します。航空機でも昼食や夕食などの冷却保存用に常時使われていて、これがワクチン輸送でも利用されることになりそうなのですが、ドライアイスの取り扱いには、いくつかの点に注意する必要があります。

 

マイナス80度にもなる超低音ですので、素手で取り扱うことはできませんし、ドライアイス二酸化炭素の塊で、気化すると低い場所に集まるという性質を持つので、密閉された空間ですと、最悪酸欠状態になる可能性もあります。

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ですので、換気も必要……

 

ただ航空輸送にとって1番ネックになるのは、実はドライアイスは密閉された空間の中で、気化して体積が膨張してしまう、という点。
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気化すると最大で700倍以上の体積に膨張して、ビニール袋やペットボトルなどに密閉しておくと、二酸化炭素が充満して破裂することがあるので、密閉は厳禁……

 

そのため、ドライアイスは第9類危険物(9種類に分類される危険物のうち、その他危険物の扱い)に指定されています。
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航空輸送の場合は、第9類を示すラベルが貼られて、さらにはUN1845というドライアイス梱包を示す番号を表示。

 

通常航空機でドライアイスが梱包される場合は、通気性がある箱を使って、梱包内の体積が増えるのを防ぐ上に、
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排出された二酸化炭素を、飛行機の与圧装置の一部である換気装置で機外に排出するので、少量であれば問題になることはまずないです。

 

ただ積載量が増えてくるとなると、話は別……

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様々なケースを想定しておく必要があるので、航空輸送にはドライアイスの搭載量に制限があり、国際線機材のような大型機といえども通常は1,000キロまで。ちなみに裕坊が乗務するリージョナルジェット機ですと、1箱あたり2.5キロまでで、合計で上限は100キロ。

 

その搭載量の上限を引き上げることができれば輸送能力も上がりますから、各航空会社とも連邦航空局などと協議を重ねながら、輸送体制の確立に尽力しています。

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ドライアイスの取り扱いの障壁がクリアされれば、輸送体制は整う計算にはなります…

 

あとは医療機関で如何にそれを保存していくか……特にファイザー製薬のワクチンですと、マイナス80度での保存が必要になるので、しばらくは大学病院などの規模の大きい医療機関のみでの取り扱い可能、ということになるかも知れません。
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モデルナ社製のワクチンですと、マイナス20度で保管できれば最大半年間保存が可能だということなので、近所のクリニックなどに保管されるワクチンは、モデルナ社製ということになるかも…

 

あと薬剤師の視点でいうならば(裕坊は、日本の大学で薬学部を卒業しました)、変異の早いRNAウィルスであるコロナウィルスのタイプの違う型でも広範囲に効果があるのか、またRNAウィルスの一種であるコロナウィルス相手に終生免疫が得られるのか、などなど、裕坊自身、知りたいことだらけ……

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もし裕坊が白衣を着て、薬局の店頭に立っていたとするならば、患者さんにはワクチン接種を勧めることになったかも知れませんが、心の中では『もうしばらく治験結果を見るまで待ちたいなぁ』になっていた、と思います。

 

 

 

もう1日お休みをいただきます。