Yuichibow’s diary

リージョナルジェット機の操縦席から外を眺めるお仕事をする人の日記

裕坊、自宅待機

アメリカの小型旅客機を操縦する、裕坊と申します。こんにちは。

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先週金曜日からの4日間のフライトは、3日間に短縮。一度も操縦席に座ることなく自宅へと戻り、今日1日は自宅待機となって明日からはひたすらスタンバイ待機。旅客便が通年に比べてほぼ8割減ですので、先月先々月はスタンバイで待機しているパイロットの中には、フライトが全く入らない者もおりました……

 

通常定期航空会社のパイロットは、操縦技術保持を目的とした法律がいくつかあり、そのうちの1つに90日以内に離陸着陸をそれぞれ3回ずつこなさなければならない、とあるのですが、旅客便は激減していてフライトの機会がほとんどないパイロットもたくさんおりますので、アメリカでは連邦航空局が特例措置として、期限を通常の90日から150日へと延長しています。

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もし離陸着陸をしないまま期日を過ぎてしまうと、シミュレーターがある施設に呼ばれて、離陸着陸をそれぞれ3回こなします。これで期限更新……ただ手順操作などのおさらいなどもしなくてはならない上に、パートナーを組むもう1人のパイロットも同様に期限切れになってることが多いので、大抵2時間たっぷりのフライト訓練を課されることにはなります……会社にとってはこの訓練は余分なコストになるだけなので、スタンバイのパイロットであれば、期限切れ前に3日間のフライトを入れたりして、3回の離陸着陸を半ば無理矢理にでもさせていますが……

 

一年に一度の座学も義務付けられますが、3密を避けるために今現在も座学用の施設は閉鎖中。こちらも期限を3ヶ月延長の措置がなされています。対策としてオンラインによる講義を我が社では模索していたようですが、その後の進展にはついては、全く会社からの音沙汰なし……秋以降もコロナウィルスが感染再拡大の可能性は十分ありますし、世間一般の学校でもオンライン授業は徐々に導入されていますので、航空業界でも、オンラインはいずれ取り入れられるものと個人的には思っていますが……

 

 

需要が激減している旅客航空便に比べると、航空貨物便は堅調に推移しています。旅客利用の代表的空港であるアトランタ空港を例にとってみると、昨年まで世界で最も忙しい空港である地位を、ほぼ20年に渡って維持してきたアトランタ空港。平均の1日当たりの発着便数は、昨年には旅客便だけで2,000超え(年間旅客航空便数の合計:735,523便で1日平均2,015便でした)を達成していたのですが、今年3月中旬以降は大幅に減り、今年の5月2日(土)では529便。同日におけるアラスカ州アンカレッジ空港では、744便の貨物機の発着があり、アトランタ空港を発着数で抜き去るということが起こりました……

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つい先日51歳になったばかりの裕坊と同年代であれば、アンカレッジ空港と聞くとかなり懐かしい響きがあります。まだ航空機の航続距離が長くなく、ジャンボジェット機を以ってしても、日本からアメリカ大陸への直行便は、西海岸までならなんとかなるという時代。ニューヨークへの直行便となると、ニューヨークまではギリギリ飛べても、もし着陸できなかった場合の代替空港へ行くには航続距離が足りない時代……またヨーロッパ行きの便も冷戦の影響で、シベリア上空が使えませんでしたので、アラスカ経由がほとんど。経由地はアンカレッジ空港で日本人の利用者も多く、空港内には日本語が話せる店員がいるお店や、うどん屋さんなんかもあったんだそうです。

 

氷河クルーズがあったりするなど、観光地としても名高いアラスカ州
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デトロイトからでも、この時期はアラスカの観光需要が高くなるので、平常時ですとアンカレッジ行き直行便が運航されます。もちろん今年2020年は観光需要自体がほぼ消滅しておりますので、直行便などはなく、もし今アラスカにデトロイトから訪れる場合は、シアトル経由にはなりますが……

 

 

ちなみにアメリカにはアラスカ航空なる航空会社が存在し、アラスカ原住民の象徴ともいえるエスキモーが尾翼に施された機体を使っています。
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ただこのアラスカ航空、アラスカを名乗ってこそいるものの、本社はワシントン州シアトル近郊にあり、運航もシアトル・タコマ国際空港が起点……

 

そのアラスカ航空、長らくボーイング737型機のみを保有する中堅航空会社だったのですが、数年ほど前にバージンアメリカ航空という航空会社を買収。

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現在ではエアバス機をも保有する航空会社になりました。

 

 

アンカレッジ空港に話を戻しますと、1990年代以降はソ連崩壊後、ロシアも積極的にシベリアルートを解放、さらには航空機のエンジン性能が飛躍的に上がって、双発機での長距離洋上飛行なども可能になり、アラスカに寄港する必要がなくなってアンカレッジ空港の需要は大幅に減少。現在では日本からの旅客機による直行便はなくなっています。

 

ただ航空貨物の世界では、まだまだ存在感が高いアンカレッジ空港。

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アメリカの貨物航空大手、フェデックス社もUPS社もアンカレッジに重要拠点を今でも置いていて、乗務員の所属先の空港の1つにもなっています。

 

アメリカ大陸の西北端に位置するアラスカ州

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日本からアメリカ大陸東海岸へのルートでは、ほぼ中間点に位置。地理的に非常に良い条件で、先進工業国のほぼ90%を、航空路で10時間以内に到達できるところに位置するそうです。

 

その利便性から小規模の航空貨物航空会社もいくつか本社を置いていて、アメリカ人ですらほとんどの人がその存在すら知らない、ノーザン・エア・カーゴ社もアンカレッジに本社があります。

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航空貨物便は、到着先での荷物配達を昼間時間帯に持ってくるため、さらに空港利用料を安く上げるために深夜早朝を狙って発着するのが基本。その為、国内線での運航は深夜になることがほとんど。

 

裕坊はかつて一度だけ、フェデックス社の本社があるテネシー州メンフィスからデトロイトまで、帰宅用の足として利用させていただいたことがあったのですが、この時も出発は深夜3時……

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昼間は静かでほとんど人の行き来もなかった駐機場に、日が暮れる頃になって荷物が集まり始め、深夜になると超多忙になるという不思議な光景が繰り広げられる航空貨物の世界。深夜中心の運航になりますので、パイロットたちは必然的に引退後の平均余命が短くなる傾向にあります。航空貨物の世界で生きるパイロットの宿命。これは国際線を主に従事するパイロットと同じ運命にあります……

 

ボーディングブリッジなどはなく、専用の階段を使って飛行機を乗り降り……
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オンラインによるショッピングが増えて、個人でも利用すること機会が多くなった貨物運搬会社。航空貨物も例外ではなく、コロナウィルスの影響下で、ますます需要を伸ばしています。縮小する業種が溢れる中で、これからますます伸びていきそうな業界の1つになりそうです。