Yuichibow’s diary

リージョナルジェット機の操縦席から外を眺めるお仕事をする人の日記

裕坊、明日出発

アメリカの旅客航空会社で、小型旅客機に乗る、裕坊と申します。こんにちは。

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ほぼ1週間のお休みをいただいて、明日から4日間のフライトへ出発です。今のところ4日間のうちの担当予定の便は1。今のところ、1便しかありません……3日目にオハイオ州コロンバスから、我が社の本社があるミネアポリスまでの1便だけ…

 

各業界がコロナウィルスの影響でかつてない規模の減収に見舞われる中、旅客航空会社は大幅減便にて対応中。デルタ航空管轄内の5月28日(木)の旅客便の運航数、デルタ航空本体で569便、子会社のエンデバー航空が255便、契約委託先のスカイウェスト航空(本社:ユタ州セントジョージ)で243便、リパブリック航空(本社:インディアナ州インディアナポリス)で21便でした。

 

裕坊が勤めるエンデバー航空は、デルタ航空の100%出資の完全子会社。最大76名仕様の小型機を使って、地方路線であったり、需要があまり大きくない都市同士を中心のフライトを担当。

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閑散期の運航数は平日でおよそ700ほどで、クリスマスや独立記念日のような大型の祝日の前後で900ほど。平常時と比べて、運航数はおよそ7割減。会社からのオファーで無給休暇に入っている乗務員もいて、アトランタに所属するパイロットの中には、失業手当を受け取っている者もいます。

 

そんな中、デルタ航空では事業規模の縮小に踏み切る方向での生き残りを、選択し始めました。コロナウィルスの影響下、各企業ではこれまで出張に頼っていた仕事をオンラインによるミーティングに切り替えたり、企業同士の契約交渉などでも、オンラインツールを積極的に利用するなど、ビジネス体系もかなり変わってきていますので、ひとたびコロナウィルスの蔓延が終息した後でも、かつてほどにはビジネス客は戻ってこない、という試算もあるようです。

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そもそも航空会社の利益は、その大半がファーストクラスであったりビジネスクラスからの収益、あるいはプレミアムメンバーなどの上級会員などの収益に頼っている部分がありますので、需要がコロナ渦前並みに回復したとしても、客単価が低く抑えられたままですと、利益が上げられないという事情もあるので、仕方ない選択ともいえます。

 

そんな中、長年デルタ航空の中西部の基幹空港として位置付けられていたシンシナティ空港(ケンタッキー州シンシナティの都市自体はオハイオ州に属しますが、空港はオハイオ川の南にありますので、ケンタッキー州になります)の乗務員所属先の閉鎖が決定。

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これまでは、規模が小さいながらもボーイング737型機の所属先の1つとして残っていたのですが、閉鎖が決まりました。エンデバー航空では、5月28日現在のところは残ることにはなっていますが、私たちの場合も時間の問題………ただ重整備を行える規模の大きな整備庫がありますので、整備点検の基点としての機能は残すようです。

 

コロナウィルス蔓延が急速に広がり出した3月時点では、デルタ航空全体で1日当たりおよそ1億ドル(日本円にして、およそ110億円で、エンデバー航空による運航費も含んでいるそうです)の赤字を出していたのが、5月末時点では赤字額は3月のおよそ半分ほどになりました。6月末には1日あたりの赤字額が4,000万ドルと試算しています。目標は、赤字発生を年末までにゼロにまで解消すること。ただし余剰となる従業員の削減なしでは、実現不可能というのが現実なようです……

 

デルタ航空本体では、現在所属するパイロットはおよそ14,500名(エンデバー航空のパイロット2,000名は含まず)。9月末までは連邦政府からの緊急援助金の給付があり、給付の条件の1つに会社の都合によって従業員を解雇しないこと、というのがあり、会社の意向による解雇というのは9月末まではありませんが、10月の時点で7,000名の余剰が出るという試算をしているようです。本体でこれだけの余剰が出るとなると、我が社エンデバー航空でも同様に余剰が出るのは必至。既に早期退職による人員削減も見据えているようで、早期退職の応募もいずれは実施することになりそうです。

 

 

そんな中で同様に規模縮小が決まったのが、三菱リージョナルジェット改めスペースジェットを開発していた三菱航空機(本社:愛知県西春日井郡豊山町、名古屋小牧空港内)。

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人員削減、量産機の製造中断、米国の開発拠点の閉鎖なども含めて、大幅な開発事業の見直しを迫られているようです。そもそも親会社である三菱重工(本社:東京都千代田区丸の内)ですら、2020年3月期通期の連結決算は赤字……事業損益がほぼ300億円の赤字に終わりました(ちなみに2019年3月期の通期決算は、2,000億円の黒字)。

 

航空機が認可を受けて旅客機として飛行するには、機体の安全性を証明するために、航空局から型式証明を発行してもらうことが必要になるのですが、その型式証明の取得に向けて作成された試験機10号機(登録記号:JA26MJ)は3月14日に初飛行。ところが開発初期から続いている不具合を900箇所も改良して臨んでいる10号機といえども、不具合を全て解消するには至らず……

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仮に試験飛行を順調に続けていたとしても、2021年の納入すら間に合わない可能性があったのだそうです………アメリカの西海岸には、ワシントン州のモーゼスレイク空港に、スペースジェット機の試験飛行の基点となる「モーゼスレイク・フライトテスト・センター(MFC)」があるのですが、そちらには試験飛行用の10号機がまだ届けられない状況……最近まではモーゼスレイクでは、初期型の試作機である4号機を改修しての試験飛行が続いていましたが、それもコロナウィルスの感染拡大とともにしばらく中断。5月5日から飛行再開にはなったものの、量産機型の10号機の到着には今も至っていません……

 

仮に型式証明が取得できたとしても、今までに旅客機量産のノウハウがない三菱では、月間10機の量産は見込めず、3機がやっとということらしいです。ただ受注が継続できるかは、スペースジェット機の仕上がり次第……コロナウィルス以前に、開発の不透明な状況から脱し切れていないのが、スペースジェット機の現状なようです……

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三菱航空機の総社員数は、およそ1,500名。半数の社員を三菱重工の他部門への移動を前提に、組織の再編にも着手するようです。三菱重工本体の赤字決算を受けての、苦渋の決断でしょう。それでもなんとか事業は残してほしい。日本の将来がかかる一大事業。完成になんとか漕ぎ着けて欲しいです。