Yuichibow’s diary

リージョナルジェット機の操縦席から外を眺めるお仕事をする人の日記

裕坊、今日から再びリザーブです。

皆さんこんにちは、リージョナル航空会社勤め人、裕坊です。

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昨日は今日から始まる、今月の『リザーブ』スケジュールに備えて、1日バタバタとあちこちを走り回っていた裕坊。

 

まずは車の修理屋さんへと駆け込んで、エアコンのコンプレッサーの付け換えに始まり、
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歯医者さんでは、虫歯の治療……
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愛妻ちゃんに頼まれていたお使いに………
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洗車……
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そして本来であれば、今日はスタンバイシフト1日目だったのですが、

 

今日は一切裕坊にはお呼びがかからず、電話を待つ間はひたすら机に向かってのお勉強。

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実は、連邦航空局の要請に従って、我が社でも新たに訓練項目が書き加えられることになり、それに関するビデオを見ておりました。その項目とは、

 

航空力学に関するお話………

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近年では、航空機、特に旅客機における自動化、省力化がかなり進んで、航空機の信頼性も飛躍的に向上し、ここ最近の訓練では航空機の操縦そのものよりも、フライトクルー同士の意思疎通(Crew Resource Management)や危険予知から危機管理(Threat and Error Management)といったソフトスキルにかなり比重が置かれていました。

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しかしその一方で指摘されていたのが、自動化の極度な進化に伴う、パイロットの操縦技術の低下……
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特にフライバイワイヤと呼ばれる最新の技術を搭載する航空機にもなると、飛行機は機械が操縦の大部分を担当する、という大前提の元に、飛行機も製造されていますので、
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通常は自動操縦に頼りがちになり、地上での滑走路までの行き来などを除くと、パイロットによる操縦が離陸時着陸時の数分だけに限られることも少なくなく、近年の旅客航空会社におけるシミュレーターを用いた飛行訓練で、航空力学的に航空機が危険な状態に陥っていることを認識するパイロットの認知能力低下が、はっきりとデータで指摘されていたのだそうです。

 

特に顕著だったのが、離陸時、着陸時の低速時における危険察知能力低下だったのだとか………

 

連邦航空局が指摘していたのは、航空機の『失速』状態の認知、そしてその状態からの回復。

 

 

では『失速』とは何なのか。ということで、航空力学をほんのちょっと解説。

 

 

航空機とは、下の図のように基本的には、揚力(Lift)、重力(Weight)、抗力(Drag)、推力(Thrust)という、4つの大きな力が加わっていているのですが、
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そのうち、飛行機を空中へと浮揚させる『揚力』に、ちょっと注目してみます。

 

 

『揚力』とは……

 

主翼上面のなだらかな曲線の上を空気が通過すると、主翼上面上に低気圧が発生して、(これをベルヌーイの定理と呼びます)
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その低気圧に主翼が引き寄せられるのですが、これが飛行機を空中へと浮揚させる原力となるのです。これが『揚力』。

 

ただし、それは空気の流れが、なだらかであることが前提……f:id:Yuichibow:20190309141654g:image

 

実は機首の角度が上げて、それに伴って主翼の空気の流れに対する角度が上がってくると、同じ速度でたくさんの『揚力』が得られるという特性があるのですが、同時に空気の流れもなだらかではなくなり、

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ある一定の角度を超えると、なだらかな空気の流れを保つことができなくなり、主翼上面上における空気の流れは乱れてしまうことになります。

 

これが航空力学上における、『失速』。当然空気の流れが乱れますから、『揚力』も得られなくなってしまいます。

 

大まかな定義における『失速』(英語ではストールと呼ばれます)とは、速度が極端に落ちて揚力が保てなくなり、航空機の高度が維持できなくなる、と解釈していただいて、ほぼ差し支えありませんが、

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厳密には、この空気の流れの乱れを指します。

 

 

航空機は離陸滑走距離、着陸滑走距離をなるべく短くするようデザインされているのですが、滑走距離を短くするには、離着陸時の速度は遅い方が有利になります。

速度を遅く保ったまま離着陸ができるのに十分な『揚力』を得るためには、航空機はある程度、機首を若干高めに保つ必要が出てきますが、
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当然、航空機は『失速』に近い状態にあることになります。

 

フライトスクールで、飛行訓練を受けている時には、セスナなどの訓練機において、
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この『失速』状態や、『失速』状態からの回復などの練習をf:id:Yuichibow:20190309141627j:image

何度も何度も、これでもか、というくらいに繰り返します。

 

『失速』からの回復に必要な作業とは、「主翼上面上で乱れてしまった空気の流れを、なだらかなものへと戻す」ことを指しますから………

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操縦方法としては、機首を若干下げる必要があるのです。
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人間の防衛本能だと、『失速』時には高度を保つために、操縦桿を手前に引いてしまいそうになるのですが、

 

『失速』からの回復時には、操縦桿をほんの僅かながらでもいいですから、前へと押さなければいけません。

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この新たな訓練項目は、2014年の閣議決定で正式決定。連邦航空法には、3月12日に正式に新しい法律の項目として施行になるそうです。

 

裕坊のシミュレーター訓練は来週。ほぼいの一番に、新しい訓練を受けることになります。

 

 

ミネアポリスに、別の講義に赴くために、来週の月曜日に出発。リザーブは土曜日、日曜日の2日間でひとまずお休みです。