Yuichibow’s diary

リージョナルジェット機の操縦席から外を眺めるお仕事をする人の日記

裕坊、出発準備

皆さんこんにちは、航空会社フラリーマンです。

明日からの出勤に備えてYシャツにアイロンをかける裕坊。制服にアイロンをかける時が、明日からの仕事を実感する瞬間。気の小さい裕坊は何度もトイレに行きたくなってしまいます。出勤前は必ず3度トイレに座っている小心者。

昨日はデルタ航空本体で大型のエアバスに乗る友人に会ってきました。インディアナ州出身、数年ほど前まで裕坊の勤めるリージョナル航空会社で、ファーストクラスもない50人乗りの小さな飛行機を操っていた生粋のアメリカ人。日本語の勉強真っ最中で、まずまず綺麗な日本語も話せます。話題になるのは国際線のお話。

国際線、特に東へ西へと長距離を飛ぶ飛行機野郎にとって1番堪えるのがジェットラグ。俗に言う時差ボケ。7時間、8時間、日本行きの便ともなると機上の人となること12時間以上。日本との時差は米国東部時間と比較して夏場で13時間。冬場だと14時間。そして大抵の場合24時間で折り返して再び米国本土を目指します。しかもデトロイトに帰ってくるのではなく、違う都市へ行ってそこでまた宿泊して次の日にはまたアムステルダムへ戻ったりなど、フライトはほぼ一週間に渡り、担当便数も4本ほどになるのだとか…

1番ツラいのが寝る時間みたいです。米国での時間そのままに寝ればよさそうなものですが、そうも単純にもいかないようです。国内線、近距離国際線しか飛ばない裕坊にとっては、同じパイロットでも全く異次元の世界。

全く違う世界に住むといえば貨物専用便を運航する会社のパイロットたちもそう。アメリカには複数の貨物専門の航空会社が存在します。FedExUPSが代表的。日本にもボーイング747を主力とする日本貨物航空があります。裕坊、実はFedExに乗せてもらってメンフィスからデトロイトまで帰ってきたことがありました。

裕坊の勤めるリージョナル航空会社の現在の本社はミネアポリス。かつて本社はエルビス・プレスリーで知られるテネシー州メンフィスにありました。ときどき自分の休日にメンフィスにやってきては、近距離線のフライトをこなしてお小遣いを稼ぎます。数日のフライトをこなして家路に着く裕坊。当時の親会社ノースウエスト航空デトロイト行きを待ちます。デトロイトは天候が悪く、遅延は1時間、また1時間と伸び、拘束制限時間を超えたクルーは飛行機を飛べなくなり、デトロイト行きは結局欠航………………

諦めたような表情を浮かべて家路に着く一般の乗客から離れ、裕坊が向かったのはFedExの駐機場でした。メンフィス空港の北側には大きなFedEx専用の大型駐機場があり、昼間は全体真っ白に大きな紫色の帯が垂直尾翼に施された大型の機体が何十機と停泊しています。大きな塀に囲まれたそのFedExの駐機場。昼間は全く人影がなく、人っ子一人見ることはありません。

裕坊が向かったのは夜11時。昼前の静けさがウソのように賑わいを見せます。裕坊を乗せたシャトルバスは旅客ターミナルを離れると一旦FedEx従業員駐車場へと立ち寄り、FedExパイロットを何人も乗せて駐機場まで。実はメンフィスは世界最大の貨物航空会社FedEx Expressのお膝元。日が暮れると地上係員が押し寄せ、次から次へとやってくる貨物を飛行機に積み込みます。貨物で満載になった機材を各地に飛ぶのに深夜にパイロットがショーアップ。デトロイト行きの定刻は深夜2時。

3時間の時間を持て余して裕坊が立ち寄るのはカフェテリア。大きな透明プラスチック容器に野菜を盛り付けて3ドルを支払い、小腹を満たします。1時ごろになると名前を呼ばれ、デトロイト行きの担当便の機長にご挨拶。専用のらせん階段を昇り、飛行機へと乗り込みます。操縦席のすぐ後ろには4人がけのベンチシート。搭乗したのは裕坊1人で、疲れた体を休めるのに壁にもたれかかります。

デトロイト到着は明け方の朝5時。赤いマリオットホテルのシャトルFedExの事務所で3人を拾い上げ、機長と副操縦士2人をまずはホテルで降ろし、裕坊をそのあとデトロイト空港旅客ターミナルまで運んでくれます。裕坊が家に着くのは朝の7時ごろ。その頃貨物便を送り出したメンフィスの大型駐機場からは飛行機は姿を消し、人影はなくなり昼間の静寂を取り戻します。

貨物専門航空会社に勤めるパイロットたちは今日もこのフライトを繰り返します。昼行便の運航もありますが、大半は深夜の運航。業界ではこれを英語でOperations at the back side of the clockと呼びます。直訳すると時計の反対側の運航。即ち昼夜逆転フライト。裕坊にとっては一度きりの体験。対して貨物専門便担当の飛行機野郎にとっての日常。オンラインで注文した品が定時に我が家へと届くのには、彼らの努力が背景にあることを身をもって知る貴重な瞬間です。

明日も早朝の出勤。今度の4日間はデルタ航空のお膝元アトランタを往復する便を担当です。

 

つづく

裕坊